注文の多い料理店

株式公開ナビ (2010年2月23日 21:45)|コメント(0)| トラックバック(0)

宮澤賢治

レストラン二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊(しろくま)のやうな犬を二疋(ひき)つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを云(い)ひながら、あるいてをりました。
「ぜんたい、こゝらの山は怪(け)しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」
「鹿(しか)の黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞まうしたら、ずゐぶん痛快だらうねえ。くる/\まはつて、それからどたつと倒れるだらうねえ。」
 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちよつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。
 それに、あんまり山が物凄(ものすご)いので、その白熊のやうな犬が、二疋いつしよにめまひを起して、しばらく吠(うな)つて、それから泡を吐いて死んでしまひました。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼(ま)ぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。
 はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。
「ぼくはもう戻らうとおもふ。」
「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹は空(す)いてきたし戻らうとおもふ。」
「そいぢや、これで切りあげやう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」
「兎(うさぎ)もでてゐたねえ。さうすれば結局おんなじこつた。では帰らうぢやないか」
 ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。
 風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
「どうも腹が空いた。さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもさうだ。もうあんまりあるきたくないな。」
「あるきたくないよ。あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」
「喰べたいもんだなあ」
 二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひました。
 その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。

続きは青空文庫「宮澤賢治 注文の多い料理店」でお読みください。

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